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ハデスの物語B
美少年ナルキッソスとこだまのエコー

   カラバッジョ「ナルキッソス」
 ナルキッソスは河神ケーピソスとニンフのレイリオペーの子。ナルキッソスが生まれるとき、予言者テレイシアースが、「自分自身を見なければ長生きする」と告げた。
 成長して彼は類稀な美少年となった。
 その美貌に誰もが魅入られたが、彼は受け入れない。
 そんなナルキッソスに恋したのはニンフのエコー。
 おしゃべりが好きな快活な木の精だった。

 エコーはある日、仲間のニンフと浮気するゼウスを匿った。
 ゼウスがニンフといる間に、ヘラをそのおしゃべりで気付かせないようにした 。
 ヘラは即座にそのトリックに気がついた(お約束)。
 激怒したヘラはエコーに罰を与える。
 それは他人の言葉を鸚鵡返しできても、自分からは話しかけられないという罰。
 お喋りが好きなエコーにこの罰は辛い。

 明るかったエコーは友達のニンフとも離れ、木陰から美しいナルキッソスを眺める日が続いた。
 ある日、人の(ニンフだけど)気配に気付いたらしいナルキッソスが口を開く。
「誰かいるのかい?」
 側にいたエコーが答える。
「いるのかい?」
「だったら、そこから出ておいで」
「出ておいで」
 相手の言葉尻しか喋れないエコーだったが、好きな少年に話し掛けられたのが嬉しかったのか、ナルキッソスの前に踊り出た。
 ところが、エコーを見たナルキッソスは冷たい仕打ち。

 

プッサン「エコーとナルキッソス」
 「なんだ、おまえか。おまえと恋するくらいなら、死んだ方がましさ」
 そう言い放つと、ナルキッソスはさっさと走り去る。
「死んだ方がましさ」
 エコーは泣きながら、その言葉を繰り返した。哀しみのあまり、エコーは深い洞窟の中に隠れた。泣き続けているうちに、エコーの身体は消えてなくなり、声だけが残った。エコーは今でも、山の谷間や洞窟の中で呼べば応える。

 さて、こんな性格のナルキッソス。
 エコー以外のニンフにもつれない仕打ち。
 精一杯の思いで伝える恋心を、好かれないのは仕方ないとしても、せめてもう少し優しい心を持っていてくれればと、ニンフたちは嘆き悲しんだ。
 可愛さ余って、憎さ100倍とでも言うべきか。
 ある日、気の強いニンフの一人が神に祈った。
 思いつづけても、無視される苦しみを、悲しみも、ナルキッソスも味わうが良い!、と。
 その願いを聞き入れたのは冥界に住む、因果応報の女神ネメシス。
 ヒュプノス(眠り)やタナトス(死)と同じようにニュクス(夜女神)の子。
 ネメシスは人間の思い上がった無礼な行為に対する神の憤りを擬人化した女神だとされる。
 早速、ネメシスはナルキッソスに罰を与える。
 それは、恋しても恋してもその思いが報われないという罰。
 ナルキッソスは恋をした。
 水面に映る自分の姿に恋をした。
 池の中にいる美少年は微笑めば笑い返してくれるが、抱きしめようとしても逃げてしまう(水に手を入れると、自分が映らないから)。
 声をかけても返事も無い。
 だけど思わせぶりに見つめ返してくれる。
 そんな自分の姿に見惚れるナルキッソス。
 水に映る自分の姿に恋焦がれ、求めても得られず、それでも思いつづけて、そうしているうちにナルキッソスは衰弱して命を終わらせていった。
 彼は同名の植物「水仙」に変身し、魂は冥界を旅したが、その旅の途中でも水面に映る自分を見つめつづけていたと言う。

エコーは英語でも「エコー」。音の残響効果を示す言葉の語源となった。
ナルキッソスは、精神医学用語「ナルシシズム」の語源となった。己の美貌や才能に自惚れる事をいうようだ。

 

続く



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