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ドレイパー『ハルキュオネ』
一方、アルキュオネは夫の死を知らず、ケユクスの帰りを今か今かと待っていた。
夫の着物を用意し、夫が帰ってきたときに着る自分の衣装も用意し、夫の無事の帰りを神々に祈り続けた。
特に結婚の女神であるヘラの神殿には足繁く通い、貢物を欠かさなかった。
ヘラの元には、既に死んでしまった人間の無事を願う供物が溢れた。
さすがにそれを見て、ヘラは困惑した。
(アスクレピオスの事件以来、死んだ人間を生き返らすのは神々といえどもタブーである)。
喪中にあるべき人間を祭壇から遠ざけるために、虹の女神イリスがヘラの元に呼ばれた。
イリスはヘラの使者として、神話にはよく登場する足の速い女神である。
イリスはヘラに指示されて、眠りの神ヒュプノスの元に向かい、アルキュオネの夢の中にケユクスの死を知らせるように伝えた。
ヒュプノスはその仕事を息子であるモルペウスにさせる。
かくして、ケユクスに扮したモルペウスがアルキュオネの夢の中に現れ、語りかける。
自分は死んだ。
喪服に身を包め。
嘆かれもせず、下界の亡者の下に通わせないでくれ。
アルキュオネは眠ったまま腕を伸ばし、夫の身体を求めたがその手は空しく虚空を掻き抱くだけだった。
目が覚めたときはケユクスがとうに亡くなったものと確信した。
朝が来るとアルキュオネは、かつてケユクスを見送った浜辺にいた。
別れのキスをした同じ場所にアルキュオネが立つと、その沖のほうに人影らしきものが見える。
波に運ばれた死体だった。
ケユクスである。
死んでも妻の元に返るというケユクスの一念からか、ケユクスとアルキュオネの悲しい再会だった。
この悲劇に神々は同情を禁じえず、夫婦の姿を翡翠(ヒスイ)にも似た翡翠(カワセミ)に変えた。
鳥に変身した姿になっても夫婦の愛には変わりなく、二人は睦まじく連れ合って次々と子を生した。
荒れやすい冬の季節に、一週間だけ穏やかな日和が続くのは、アルキュオネの父アイオロスの計らいで、彼女が水に浮かぶ巣作りの間は風がやんでいるという。
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